第56章 ラヴァーズ・パニック Ⅳ
「あたしが味見したいのは、アンタの言う「イイカラダ」の男じゃなくって、一緒にいた、オレンジの髪のコだもの……。」
(――――――!!!???)
縢は、その発言を聞いて、本気で意識を失いそうになった。辛うじて、自分の身体が跳ねそうになるのは押しとどめたが、そんなことは些末なことだ。
(い、今―――――、オレンジの髪って言ったよな……。それって、俺のコト――――――!?じ、冗談じゃない!ありえねェ!俺、男にカラダ弄(いじ)られる趣味なんてねェよ!)
縢は、全神経をフル稼働させて、体の震えを止めている。怒りとも恐怖とも焦りともつかない感情が、縢を支配しようとしている。
(ってコトは―――――、ロミオが言ってる男ってのは、コウちゃんで間違いない。コウちゃんは、この部屋にいる……?)
しかし、狡噛に意識が戻っているのか、そもそも意識があったとしても、身体が自由に動く状態なのかも分からない。相変わらず、縢が動ける決定打には欠ける。
「あぁ、でも……。タダってワケにはいかないわねぇ、ロミオ……?」
「はぁ……、えぇ……?」
相変わらず、ロミオは興奮冷めやらぬといった状態だ。
「今月中に、あと50ほど、売り捌(さば)いて貰おうかしら?」
「嗚呼、あの、クスリ……。えぇ。分かりました。ですから、その……。味見、を……!」
(……、ふぅん……。どうやら、この「オーナー」というのは、何かのクスリを売り捌かせているらしい。それも、ロミオ……、「ラブ・ラビリンス」で踊り子をやっていた人間に?偶然にしては、出来過ぎている。もしかして、この「オーナー」ってのは、クラブバーのオーナーか?クラブバーのオーナーが、クスリの売買も斡旋(あっせん)していた可能性は……?いや、この状況だ。それ以外に説明がつかない。)
「いいわ、契約成立ね。こっちに来なさい?」
ロミオがベッドから降りて、オーナーに連れられて室内の別の場所へと移動した。
(俺から離れていく……ってコトは、部屋の奥に行った……、ってコトか……?)
縢は、遠ざかる足音を聞きながら、神経を研ぎ澄ませて、周囲の様子を少しでも窺おうとしていた。