第6章 翳(かげ)
その日は、もう夜9時を過ぎていたこともあり、私は帰路についた。縢さんは―――――じゃなかった、しゅ、しゅうせいくんは、社交辞令かもしれないけど、「また来てよね」と言って送ってくれた。無論、刑事課フロアの端まで。私が何とも言えない気持ちでいると、秀星くんはほんの少し困ったように笑いながら、「ま、俺、『潜在犯』だからさ。」と呟いた。もう、なんでだろう。そんなことをそんな声で言われたら、私の耳から離れない。私は、秀星くんの呟きなんて聞こえなかったふりをして、「また、タコライス作ってよ!」と言えば、秀星くんは嬉しそうに笑ってくれた。理屈は分からないけれど、秀星くんは、ああやって笑っている方が、いい。
家に帰って、私は長かった今日1日のことを思い返していた。
―――――『健康な市民』『人間扱い』『猟犬』『執行官』『潜在犯』『執行官隔離区画』『執行官宿舎』
―――――「ピンボール」「料理」「タコライス」「縢さん」「秀星くん」
「秀星くん」のところまで来て、私は妙にこそばゆい気持ちになり、ブンブンと勢いよく頭を振った。こんな夜更けに、一人で何をやっているんだろうか。いつも通り、明日の支度をして、明日に備えて床に就いた。