第55章 ラヴァーズ・パニック Ⅲ
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「っ……、ぁ、ああ、あっ、……!」
「ん゛、はぁっ、あ゛ぁ―――――!」
縢が何とも気持ちの悪い男声で目を覚ますと、ガタイの良い見知らぬ男が2人、ベッドの上で、尚且つ全裸で絡み合っていた。
(―――――――。)
その異様な光景に、縢は声を失った。
(――――――、ココは――――――?)
縢の目に映る景色は、明らかに、倒れた場所であるクラブバーのトイレではない。クラブバーの飲食スペースとも異なる。詳細は分からないが雰囲気から推察するに、どうやら、ホテルの大人数部屋―――――といった場所だろうか。縢には判然としない。縢自身は床にぺたんと座らされており、壁にもたれかかっているような格好だ。声は出さず、首もなるべく動かさないように、目線だけでできる限り周囲を確認すると、縢が今いる場所は、広い室内であるようだった。キングサイズのベッドが幾らか設置されており、そのうち縢の目の前にあるベッドの上で、男同士が睦み合っているといった具合だ。
(コウちゃんは――――――?)
あんあんと、野太い喘ぎ声が響く室内で、縢は狡噛を案じた。狡噛の姿は、縢の視界には無い。しかし、狡噛は絶対に無事だという確信が、縢にはあった。あの狡噛が、頭を金属バットで殴られたぐらいで、死ぬはずがない。狡噛は、まだ3年前に起こった事件の真犯人だって、捕まえていない。あれほどまでに、強い意志と鋼の肉体を兼ね備えている狡噛が、この程度のことで死ぬなど、縢には到底考えられなかった。別の部屋に連れていかれたのか――――――、それとも――――――?
(ん?あれ?そう言えば―――――)
縢はここで、ふと自分自身のことに気が付いた。
(俺、縛られてもないし、服も乱れたところが無いし……。伊達眼鏡だって、そのままじゃん。)
そう。狡噛は手酷く殴られて無力化された。しかし、一緒にいた縢は、殴られたような感覚も無ければ、身体拘束すら一切されていない。服も、全く乱された跡が無い。強いて言うならば、目が覚めたばかりで、何となく頭がぼうっとするぐらいだ。あと、自分がどれぐらいの時間、意識を失っていたのかが分からないぐらいのことだった。いずれにせよ、狡噛と比べれば、かなり優しい待遇だと言える。