第55章 ラヴァーズ・パニック Ⅲ
「―――――――コウちゃん!!」
―――――ゴッ
鈍い音がして、狡噛が小便器の前に倒れた。縢の目には、自らの目の前で、ズボンと下着をずり下げた状態で倒れ伏している狡噛と、金属バットを持って仁王立ちしている大男の姿があったのだ。
倒れている狡噛の頭部から、生々しい鮮血が流れ始めた。
――――あの狡噛が、倒れている。スパーリングでは、圧倒的な強さの、狡噛が。縢では全く歯が立たなかった狡噛が、こんなにも容易く倒されている。
(嗚呼、確か人間は、排泄の時には警戒心が低くなるんだっけか――――?いや、今考えるべきは、そんなことじゃない。)
縢は、一瞬で体勢を立て直し、相手を睨んだ。
(まずは、『猟犬』として、目の前にいる『獲物』に噛み付く―――――!)
縢は自らの神経を、戦闘用のそれに、意識的にシフトさせる。相手を見据え、床を蹴った、その瞬間――――――。
「……、っは……!?」
縢は、自分の口元に、布のようなものが押し当てられたのを感じた。
(ヤバ――――、な、伏、兵―――――?)
そしてそのまま、意識が遠のいていくのを、消えゆく意識でうっすらと感じた。