第55章 ラヴァーズ・パニック Ⅲ
(なんか、こうしてると、俺とコウちゃん、本当に普通の友達か何かみたい。)
もしも、自分と狡噛が、双方とも潜在犯でなければ、街にある店で自由に飲食を楽しんだのであろうか――――――縢は、ふとそんなことを考えた。
(まぁ、俺もコウちゃんも潜在犯じゃなかったら、そもそも出会ってすら無いか。)
当然と言えば、当然である。そもそも、狡噛は今でこそ縢と肩を並べている『潜在犯』だが、元はとんでもないほどのエリートだ。それも、全国トップの、折り紙付きの優等生だ。縢が真面目に勉学に励んでいたとしても、普通に職場などで出会える確率は極めて低い。それに、縢が仮に『潜在犯』でなく、『普通の市民』であったとしても、真面目に勉学とサイコパス浄化に努めるタイプかと問われれば、どうか分からない。縢自身も、その辺りはよく自覚している。
(まァ、どっちにしたって、あり得ない仮定、なんだけどさ―――――。)
縢はぼんやりと、店内の照明器具を見つめた。
「あ、俺、トイレ行きたい。コウちゃんは、ココで待ってて。すぐ戻ってくるから。」
縢が、トイレに行くために、席を立とうとした。
「待て、俺も行く。」
一応、これでも捜査なのだ。単独行動は控えるべきだ―――――狡噛はそう判断し、縢のあとを追った。
「なんか、過保護……?」
「馬鹿。基本だろ。」
縢のからかうような口調に対して、狡噛が冷めた目線で返す。当然だ。危険が及ぶ可能性の高い捜査現場で、単独行動は命取りの危険をも孕む。
「それに、ついでだ。俺もする。」
2人は男子トイレへ行った。縢が小用を足し終わり、未だ用を足している狡噛の方を何気なく向いた。――――――そう、その時だった。