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シャングリラ  【サイコパスR18】

第55章 ラヴァーズ・パニック Ⅲ


***

 潜入捜査4日目。
 今日こそは、何か手掛かりが掴めるかもしれない、そう思い直して現場へ向かったが、狡噛と縢を待ち受けていたのは、相変わらずのワケの分からないイベントだけだった。
 この日に催されていたのは、音楽とも絶叫ともつかない、謎の叫びを繰り返すバンドによる、ライブらしきものだった。
 捜査中、辛うじて聞き取れた歌詞は、「異性愛罪深き」「爆発しろ」「ゲイこそ至高」なる言葉の数々だった。司会の解説によれば、彼らはデスメタルユニットらしかったが、狡噛と縢には、騒音公害ぐらいにしか感じられなかった。ついでに、執行官デバイスに聴覚遮断機能がなぜついていないのか、本気で考えるに至ったほどだった。これには流石に、宜野座たちその他一係メンバーも、安否確認のための通信を試みたものの、あまりの騒音のために、狡噛と縢はほとんどその内容も聞き取れなかった。

 恐るべきことに、ライブは半時間ほど続き、クラブバーを大いに盛り上げて、好評のままに終了した。狡噛と縢は、各々頭痛を感じながら、捜査を終えたが、これといって収穫が無かったこともあり、いつもよりも疲弊していた。

「……。何なんだ、此処は……。」
 狡噛の声にも、疲労が色濃く乗っている。普段の捜査と比べれば、仕事量だってそれほどでもないが、とにかくあの叫び声と異常な空気感。ライブを楽しんでいる客は、それこそ興奮剤でも服用しているのではないか……。狡噛は、頭の片隅で、そんなことを考えていた。
「店員、ミネラルウォーターを。お前も、同じのでいいな?」
「ん……。ありがと、コウちゃん……。」
 狡噛の傍らにいる縢も、確実に疲労している。

 2人して、ミネラルウォーターを一気に飲み干した。
「っぷは~~!ちょっと生き返るね、コウちゃん。」
「んぐ……。そうだな。それに美味いな。」
 騒音がなくなったクラブバーで、肩を並べて会話する。普段も、こうして狡噛と飲み食いすることはあるが、公安局内であることがほとんどだ。こうして、捜査でもない限り、執行官である狡噛と縢が、外で、ましてや執行官だけで店内に入室するなどということはあり得ない。
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