第54章 ラヴァーズ・パニック Ⅱ
「妖艶☆絶技☆裸身ノ舞~~~~~~~!!」
妙な不協和音と共に、男のゴツイ声が、地響きのように響いた。
『な、なに……!?』
あまりの混乱が原因か、どういうわけか、その場にいないはずの六合塚の声が、執行官デバイスから漏れた。まぁ、このぐらい、多分この場にいる誰も聞こえまい。……その場をひたすらに塗りつぶしている不協和音とも音楽とも取れぬ騒音が、強烈なジャミングとなって、店内を支配しているのだから。
「コウちゃん……!なんか……!」
縢の驚きの声すら、すぐ近くにいる狡噛に届くことがない。
「嗚呼!今宵も皆様に、天上天下唯我独尊!裸身で我が迸(ほとばし)る熱情を伝えましょうぞ!!」
意味の分からない言葉を叫びながらステージに出現したのは、身長は2メートル近くにもなろうかという、筋骨隆々な大男だった。無論、縢が「プリンス」だの「ロミオ」だのといった繊細な響きを持つ言葉から連想した、儚い美少年像とは、果てしなくかけ離れていた。しかも……、下半身は隠していないどころか、完全に露出しているではないか……。これには、縢だけでなく、狡噛ですら絶句した。
「コウちゃん……、アレ……!」
縢が、何とか声を振り絞るが、もはや縢の言う「アレ」とは何かすら、特定できないほどには、ツッコミどころ満載な光景が広がっている。
「天上天下~~~~♪心は、原始のままに~~~~~♪
唯我独尊~~~~♪熱く滾(たぎ)る、我が欲望~~~~♪」
散々、下半身(前)を振りまくりながら踊った後で、さらに後ろを向き、客席に尻を突き出しながら踊り狂い始めた。辛うじて、周囲の様子を見回すと、他の客たちは、あろうことかラヴ・ロミオのステージを面白そうに見つめ、声援を送っている者すら存在しているではないか。少なくとも縢は、この裸踊りから如何なる娯楽も、見出すことができなかった。
「あれじゃあ、ロミオどころかただの熊男じゃん……。」
縢の真っ当なツッコミは、バックミュージックという名の騒音にかき消された。