第54章 ラヴァーズ・パニック Ⅱ
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「いらっしゃいませ~。」
「空いてる席に案内してくれ。」
予想していた通り、昨日の店員が、近づいてきた。しかし、縢の完璧な変装もあってか、店員は縢であると気付く素振りなど全く見せなかった。まずは、第一関門突破だ。
「お客様、何になさいますか~?」
別の店員が、オーダーを取りに来た。目的は潜入捜査だが、何も注文しないで、店内をキョロキョロと見回すなど、疑ってくれと言っているようなものだ。
「俺は……、焼酎水割りで。秀星は?」
縢は普段、狡噛から「秀星」とは呼ばれないからか、若干反応が遅れてしまった。
「ぅ、ぇ?えっと……、酒かぁ……!何にしよっかな~!?」
「んじゃ、ジンジャーエールだな。」
「ちょ!コウちゃん、勝手に決めないでよ~!俺だって酒がイイ!俺だってオトナ!ちゃんとハタチ過ぎてます~!」
「お前は酒、弱いだろ。やめとけ。」
「ぶー!」
このやり取りには、店員でも流石にくすりと笑った。
「仲がよろしいのですね。すぐに飲み物をお持ちしますので、ごゆっくりお楽しみください。」
今のところ、店内に怪しい気配はない。客も増えてきて、店員も忙しそうにしているが、特に変わったことが起きないままに、1時間以上が経過した。
(ねぇ、コウちゃん。本当に、ここでそんなことあるのかな……?)
(さぁ。まだ何も分からないな。)
縢と狡噛が、小声で言葉を交わした、次の瞬間。備え付けのステージが、突如ライトアップされた。
「皆々様、お楽しみのところ、お騒がせ致します。ここで恒例、イベントのお時間です。本日は自称『迷宮のプリンス』、ラヴ・ロミオさんによるダンスステージです!前回の踊りも好評を博しましたので、皆様の熱烈なアンコールを受けての登場です!どうぞ!!」
「へぇ~。迷宮のプリンス?美少年ってコトかな?コウちゃん!」
縢は、プリンス、という言葉を聞いて、少し期待に胸を膨らませているようだ。別に、縢は男性が好きだというわけではないが、王子様などと聞かされては、興味を刺激されてしまう。
「いや……。俺には、微妙に嫌な予感が……。」
狡噛が、そう言った瞬間―――――――――