第54章 ラヴァーズ・パニック Ⅱ
「……何コレ。」
数時間後、乗せられた護送車の中で、ドローンが縢に差し出したものは、何とも微妙な変装アイテムだった。
少し襟ぐりの開いた長袖Tシャツと、白いズボンはまだいい。桃色のカーディガンと、赤縁(あかブチ)の伊達眼鏡、さらに白いニット帽とは、いかがなものか。
「俺、絶対こんなモン着ねェから!コレ選んだのギノさんなの!?性別間違ってるって!」
『いや。変装の道具を頼んだのは俺だが、選んだのは俺じゃない。唐之杜だ。』
通信越しに、宜野座の声が響く。
『昨日、顔まで見られた以上、これぐらいしなければ、安心はできない。これは、監視官権限による命令だ。違反するなら、このまま更生施設送りにしても構わないが。』
「ぐ……っ!」
これほどに痛いところを突かれては、縢とて命令に従わないわけにはいかない。
縢は、渋々ながら着替え、伊達眼鏡も装着した。
「……プッ……、似合ってるじゃない、縢。ちょっと、女の子みたいだけど。」
六合塚が、率直な感想を述べる。確かに、縢は童顔な上、普段は跳ねさせている髪をニット帽で覆ってしまえば、中性的な感じを超えて、少女っぽく見えなくもない。ここにさらに化粧やホロ技術を適当に使って「女です」と言えば、もしかしたら騙せるかもしれないぐらいだった。
征陸も、笑いを堪えているようだった。
「ちょっと、コウちゃんも何か言ってよ!」
「……。まぁ、これで昨日の店員と顔を合わせても、昨日の客と思われることは無いだろう。あと、コードネーム(ハウンド)で呼び合うわけにもいかない。オマエはそのままの呼び方で構わないが、俺は一応、店内ではお前を下の名前で呼ぶ。苗字で呼び合うワケにはいかないからな。」
「……はぁ……。もう、いいよ……。」
縢は、微妙な気分のまま、潜入捜査現場へと揺られていった。