第53章 ラヴァーズ・パニック Ⅰ
「どうもこうも、悠里ちゃんの疑惑は、単なる誤解よ。だから、シュウくんがいる前でハッキリさせてあげようかと思って。今、シュウくんが1人で何かを言っても、悠里ちゃんは信じきれないと思うから。」
「ぇ、ぅ……。」
「だから、わたしが一肌脱いであげようと思って、ね?」
先生はそう言って、私の顔に、ぐっと自分の顔を寄せた。何だろう。少し、距離が近すぎる気がする……。いや、先生と私は女同士なんだし、別段どうっていうことも無いんだけど。
「ぇ、えっと……。」
先生は、私との距離をそのままに、クスリと笑った。
「悠里ちゃんって、無防備ね?これじゃあ、シュウくんも大変だわ……。」
その笑みが、ひどく妖艶なものに見えて、私は眩暈でも起こしそうな気がした。
「――――――ちょっ!?センセー、何してンの!?」
分析室の扉が開いたと思ったら、秀星くんが走ってこちらまでやって来た。
「あら、シュウくん。随分早かったのね。」
先生は、ようやく私から顔を離して、扉の方を向いた。
「……センセー、まさか、悠里ちゃんに……。」
「何もしてないわよ。安心なさい。」
「……。なら、いいけど。」
秀星くんは、若干ムスッとしている。それから、私に向き直った。
「悠里ちゃん……。えっと……。」
秀星くんは、言いづらそうにして、私を見ている。
「秀星くん……、その、……、さっきは……。」
私も、秀星くんの話もロクに聞かず飛び出してしまった手前、居心地が悪い。いや、原因を作ったのは、私でもあるからだけど。
「ハイハイ。シュウくんも、こっち来て座りなさい。わたしから、説明してあげるから。」
先生はそう言って立ち上がって、PCを操作し始めた。どうやら、何かのファイルフォルダを検索しているらしい。
「まぁ、本当はこういうことを民間人に話すのはご法度(はっと)なんだけど……。ま、いいわよね、別に。」
先生はそう言うと、秀星くんを見て、何故か不敵に笑った。
「ちょ!?センセー!何言い出そうとしてんの!?まさか、昨日の事件とか……!?」
「ええ。別に大した事件じゃないし、構わないでしょう?それに、恋人の不安は、キチンと消し去ってあげないとね?彼氏さん?」
「う、ぐ……っ。」
秀星くんは、先生にそう言われて、言葉に詰まっている。