第53章 ラヴァーズ・パニック Ⅰ
「今更わたしが言葉にするまでもないことだと思うけど、シュウくんは、悠里ちゃんが大切で大切で、仕方がないの。それは、悠里ちゃんにも、充分伝わっていると思ってたけど?」
「で、でも……!」
「あのね、悠里ちゃん。」
先生が、私の言葉を遮るようにして、口を開いた。その口調は、普段の先生のそれとは違って、ある種毅然としたものだった。
「わたしたち『潜在犯』は、基本的に“まっとうな恋愛”が許されない。」
「……!」
「本当なら、わたしが言うことでもないけど……。シュウくんにとって、貴女は、どんな存在になっていると思う……?」
先生は、ふっと、どこか哀しそうに微笑んだ。
「……っ……。」
どうしてだろう……。その言葉の意味するところは、私が完全に理解することなんて、きっとできないんだ。私は、一瞬でそれを悟ってしまった。それでも、その言葉は、私を締め付けるのには充分だった。……なんでだろう、胸が苦しい。
「……で?なんでまた、シュウくんが浮気したと思ったの……?」
「秀星くんの首の下あたりに……、いっぱい……。」
「いっぱい……?」
「その、キスマークが……。」
「………………。」
え?先生?なんで黙るの?
「もしかして、昨日の……。」
先生は、独りでブツブツ言い始めた。え?何?先生、何か知ってるの?
「シュウくん?えぇ、わたしよ。……、えぇ、……分かってるわ。」
あれ?先生、秀星くんと通信し始めたんだけど……。
「……。今、悠里ちゃん、分析室にいるわ。…………、OKよ。んじゃ、シュウくんもコッチへいらっしゃい。」
え!?秀星くん、コッチに来るの!?
「……というワケで。シュウくん、今からコッチ来るって。」
「ちょっ!どういうワケですか、先生!?」
私は、話の展開に全く以ってついていけていない。しかもなんか、秀星くんが分析室に来る~みたいな流れになってるみたいだし!