第52章 ディストピア 後編
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「―――――まぁ、こんな感じかな。健康な市民では、絶対に聞けない話だけどさ。あ、ギノさんなんかには、俺がこんな話したこと、ゼッタイに内緒だかんね!大目玉喰らうのは俺だからさ!いい?」
「もちろん!―――――でも、秀星くんは、いろんなものを見てて、すごいなぁって思う……。」
悠里ちゃんは、しみじみと言った。その言葉に嘘は無かった。
「まぁ、これでも『執行官』ですからね。フツーの市民じゃ絶対に見れないことも、俺たちは見てる。……まぁ、実際、悠里ちゃんに話せた内容は、ほんの一部なんだけどね。アレだよ。ホラ、実際の姿は、筆舌に尽くしがたいっていうの?そんな感じだよ。」
「あ、そう……だよね。この街は、普通の市民が、“そういうの”に触れないように、刑事課があるんだもんね。……あと、さ。秀星くんは、時々、自分のことを「檻の中にいる」って表現するし、それって多分、当たってるんだと思う。でも、こういう話を聞いてると、もしかしたら、私なんかも、檻の中にいるのかなぁ、なんて思えてくる……。……、って、ごめん。秀星くんを前にして言うことじゃないね。」
「―――――――――。」
俺は、悠里ちゃんの発言に、一瞬我を失った。
「秀星くん……、怒った?」
「……、ぁ、いや、別に、何も……。あぁ、でも、悠里ちゃんの言い分にも、……一理あるかもな。」
俺は、また飲み物に口を付けた。
「……、ねぇ悠里ちゃん。なんで悠里ちゃんは、そう思うの?よかったら、教えてよ。」
「うん?だってさ、秀星くんは時々、俺はシビュラの檻の中だ、自由が無い~みたいに言うでしょ。でも、今の話を聞けば、私だって、そうかなぁって。嫌な言い回しだけど、秀星くんの檻は、自由を制限するものかもしれないけど、それは、私もなのかなって。う~ん……、上手く表現できないけど、見られないものがいっぱいあるし、知ることもできないっていうか……。」