第5章 名前
「なんかでも、変わった苗字の人が多いね。私、最初に見たとき、宜野座監視官の名前、全然読めなかったよ。今も普通に呼んでるけど、かがりっていう苗字も、どんな字を書くか、見当もつかないし。」
「あー、確かに変わった苗字の人が多いか。俺はあんまり気にしたことねぇけど。」
そう言いながら、かがりさんは左手のデバイスを起動させ、身分証明データ?を呼び出した。
「ほれ、こんな字。」
デバイスから文字・画像データとして表示されたのは、フルネームでの彼の名前。
「かがり、しゅうせい――――縢秀星って、こんな字なんだ……」
最初に聞いた通り、綺麗な名前だと思った。特に、名前の方。優しい響きの名前だと思った。普段の私なら、別に悪い内容でなければ、思ったことは口にすることが多い。でもたった今、私は、思ったことを口にしていいか、迷っている。相手が『潜在犯』だから?私が逡巡していると、ふと頭の中で、今日の狡噛さんの言葉が再生された。
―――――――「別に、執行官――――いや、『潜在犯』だからって、そう気を遣わなくていい。」
―――――――違う。私が今躊躇しているのは、そんな理由じゃない。
絶対に違うと言い切れる。じゃあ、なんで?すぐに答えは出そうにない。それなら普段の私通り、思ったことを言ってみよう。