第5章 名前
こんな感じで、かがりさんは、一係の人たちのことを話し始めた。仕事柄だろう、仕事内容に直接関わるような話は無かったけれど、オフィスでこんなやりとりをしたとか、こんなことがあって笑えたとか、そんな日常の話を話してくれた。内容は、どうということもないものばかり。楽しそうに話すかがりさんを見ていると、私もどことなく楽しい気分になれた。公安局に来てから、同年代の人と話をする機会に恵まれなかったのもあるかもしれない。それにしても、かがりさんの話を聞けば聞くほどに、同じだな、なんて思ってしまう。会話の内容も、楽しそうに話す姿も、そう。少なくとも、そこに『潜在犯』と『一般市民』の差なんて、少しも感じられなかった。そんなことを考えて、私は今まで自分が当たり前だと思っていた常識が揺るがされたように感じて、困惑している。でも、これも不思議。全然、ほんの少しだって、嫌じゃない。
かがりさんの話をひとしきり聞き終わる頃には、私は妙に一係の人たちに詳しくなれたような気がした。名前だって、もう覚えてしまった。登場する名前ががかりさんを含め、6人しか出てこないことも、関係しているかもしれない。うち1人は、分析官だったけど。
狡噛さんは、コウちゃんって呼ばれてる人で、本が好きで頭もいい文武両道を絵に描いたような人。宜野座監視官は、一見して威圧的で怖かったけど、妙にヌケてるところがあって、実は結構見ていて面白いらしい。私がかがりさんに初めて会った日にいたのが六合塚さんで、クールだけど気が強くて、手厳しい突っ込みが冴える人のご様子。さっきかがりさんが「とっつぁん」って呼んでた人は、私はまだ会ったことが無いひとだけど、征陸さんというらしく、超ベテラン刑事で酒好きだって教えてくれた。あと、一係ではないけれど、唐之杜さんっていう分析官のこともちょっと話に出てきた。山田さんと私が挨拶に行ったときに、喫煙していたセクシーな女性。実は医師免許も持っている才色兼備な女性と聞いて、とてもびっくりした。この人たちの名前を出して話をするかがりさんは、本当に楽しそうだった。