第51章 ディストピア 前編
「悠里ちゃん……。痛い……?」
俺は一体、どんな顔をしているのだろう。悠里ちゃんが、こわばった……というよりは、明らかに怯えた表情で、俺を見ている。でも時々、チラチラと視線を上にやっている。手錠による拘束が気になるのだろう。
「う、うん……?」
あー……、今俺の犯罪係数は一体幾らになっているのだろうか。いや、夢の中でも犯罪係数って上がるモンなのか?まぁ別に、色相だって既に濁りきってるし、何より俺は『執行官』だ。今更、犯罪係数がいくらになろうと、この『身分』でいる限り、処罰の対象にはならない。
「秀星くん……、どうしたの?」
悠里ちゃんが、不安そうにこちらの様子を窺っている。あぁ、そうだった。これは夢の中だ。一瞬先には、この夢は終わって、現実に引き戻されているかもしれない。そうなってしまっては、勿体無い。
……さて。
――――――ブチ、ビッ――――!
俺は、勢いよく悠里ちゃんのキャミソールを引き裂いた。薄いキャミソールは、何の抵抗もなく、俺の手によって簡単に引き裂かれた。存在意義が失われたキャミソールは、床に投げ捨て、俺は悠里ちゃんを抱きしめた。―――――この場合、抱きしめたというよりは、力任せにしがみついた、といった具合かもしれないが。
「しゅう……、せい……、くん……!」
悠里ちゃんが、苦しそうに呼吸しながら、俺の名前を呼ぶ。俺は、悠里ちゃんの声を無視して、抱きしめる力を、より強めた。悠里ちゃんは、手錠で片手を繋がれていることもあり、思うように身動きが取れていない様子。でも、ここは俺の夢の中だ。―――――そう、だ。悠里ちゃんは、俺の夢の中へ迷い込んできた、いわば迷い蝶だ。手錠という糸に捕まった、蝶々。あぁ、これはなかなかに言い得て妙かもしれない。