• テキストサイズ

シャングリラ  【サイコパスR18】

第50章 御伽話 Ⅵ


「第一に、倉庫の出入り口の血痕。あれは、奥の扉から重要な証拠を持ち去ったとしか思えない。第二に、今日の0時から9時まで――――恐らく犯行時刻とその片付けが終わるまでの間、潰されていたカメラ。第三に、今も流れてる殺人映像だ。朝倉が犯人だったとして、犯人自らがこんなモンを撮影して園内に流すか?朝倉は少なくとも公安局の色相検査をそれなりにクリアした。黙っていれば逃げおおせることもできたこの状況で、そんな自滅行為をするか?しかも朝倉はあの時、ドミネーターによる犯罪係数の計測を拒否した。どう見たって、あの動画は他の誰かが撮影してバラ撒いた可能性が高い。それも、ただバラ撒くだけじゃない。ご丁寧に園のシステムに細工して、電源を落とそうとしてもサブ電源に切り替わるだけに設定し、オンライン状態も強制的に継続させるような工作だ。そんなモノ、朝倉単独でできるとは思えない。――――――――間違いなく、協力者がいる。それも、ただの協力者じゃない―――――――」
 狡噛は、ここではないどこかを睨み付けた。その瞳に映るのは、深淵だ。普段は狡噛の内にのみ在る、秘めたる何かだ。
「――――――マキシマ」
 その名を口にする狡噛の瞳は、より深く、闇を映した。狡噛の瞳の奥で、その闇はゆらりと、炎のようにゆらめいた。
「……。」
 狡噛の闇は、深い。その深さが計り知れないままに、縢はかける言葉をただ失った。


 宜野座は、一瞬その名前に反応するかのように、ピクリと眉を動かしたが、すぐさま狡噛の視線を振り切り、低い声でたしなめた。
「狡噛。それはもう終わった話だ。もう幽霊を追い求めるのはやめろ。……、行くぞ。」
「……。」
 狡噛は、返事こそしないが、宜野座の背中をじっと見つめている。


「……ドアブリーチ。」
 宜野座がドローンに、扉の除去を命じた。扉に鍵は掛かっていなかったようだが、扉が開いた瞬間に犯人である朝倉が何かを仕掛けてくる可能性もある。念には念をだ。
 扉は、いとも簡単に、ものの数秒で除去され、監視官と執行官全員が、休憩所へ突入する。
/ 591ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp