第50章 御伽話 Ⅵ
縢と六合塚が簡易休憩所に着いたときには、既に宜野座、狡噛、征陸が到着していた。息を殺し、休憩所横で身を潜めている。
「よし、これで全員揃ったな。万が一を想定し、念のため全員に集まってもらった。……中には朝倉がいる。犯人を取り押さえるぞ。」
宜野座が、すっと立ち上がった。その眼光は鋭く、監視官としての己が職務を全うせんとする気概に燃えている。
「……ギノ、頼みがあるんだ。」
「何だ狡噛……。今から突入しようというときに……。」
いつになく真剣な眼差しで、狡噛は宜野座と目を合わせた。宜野座としては、自分のペースを乱されたような心地だった。しかし、狡噛の真剣な目に、宜野座は狡噛を無視することができなかった。
「ドミネーターを使用する前、少し、ほんの少しでいいんだ。朝倉瑠璃と話をさせてほしい。」
言わずもがな、厚生省公安局刑事課に所属する者は、ドミネーターを使用する。ドミネーターを使用してしまえば最後、その犯罪係数に従って、すぐさま引き金を引かなければならない。それが監視官であろうと執行官であろうと、その業(ごう)からは逃れられない。狡噛とて、その程度のことは十分に理解している。しかし、今の狡噛には、抗いがたい予感があったのだ。
狡噛の様子が平生と違うことは、他の執行官にも勘づくところだった。
「どしたの?コウちゃん……?」
縢も、狡噛の様子が普段と違うことを読み取り、狡噛をじっと見た。
「……この事件、朝倉瑠璃が単独で行ったとするには、不審な点が多すぎる。」
「そりゃあ、そうだね。」