第5章 名前
「大丈夫~?」
かがりさんは、笑いを噛み殺しながら尋ねてきた。私は、大丈夫、とだけ言って、無言で食べ進めた。目の前にいるかがりさんにそんなことを言われて、味なんてよく分からなくなってしまった。それを差し引いてもおいしすぎるかがりさんの「料理」は、あっという間に私の胃袋へと消えていった。かがりさんも、それ以上の追及はせずに、おいしそうに食べていた。スプーンの持ち方が上から握るような、まるで小さな子どもがスプーンを持つような持ち方をしていたからか、食事中のかがりさんは幼く、不思議と可愛らしく見えた。
「今度は何でしょ、お姉さま?」
撤回。私の視線に気づいたかがりさんは、自分の唇にスプーンを押し当てながら、ウインクを飛ばしてきた。私はどうしていいか分かりません。
「もう、冗談だよ。冗談。」
かがりさんは、カラカラと笑っている。
「どっからどこまでが?」
「聞きたい?」
どことなく嬉しそうなかがりさん。
「ううん、もういい……。」
何だろう、理由は分からないけれど、かがりさんと話をしていると、自分の感情がいつもよりもたくさん反応するような、そんな気がしている。だからと言って、話をしたくないわけではない。むしろその逆で―――――――
「あーあ、刑事課以外の人間と、こうして話をするのなんて、ホント、いつぶりなんだろ……。」
かがりさんは、ほんの少しここじゃない、遠くを見ている。刑事課の人間?刑事課以外の人間?私は今だって、かがりさんが見ているものを、ほんの少しでいいから見てみたいなんて、そんなことを思い始めてる。
「そういえばかがりさん、職場の人たちとは仲良さそうだよね。今日だって、明らかに年齢が上の人たちを、可愛いあだ名で呼んでたよね?確か―――――コウちゃん、だったっけ?あれ、職場の人は皆そうよんでるの?」
「まっさかぁー!コウちゃんなんて呼んでんの、俺だけだよ。」
「狡噛さんは、パッと見背も高いし、怖そうだけど、きっと優しい人だよね。」
私の脳裏には、さっきまで見つめていた粉砕されたドローンと、壁のクレーターが生々しく蘇っていた。
「あ、悠里ちゃん分かる?コウちゃんってさ――――――」