第50章 御伽話 Ⅵ
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殺人映像は変わらず流れ続けており、園内は異様な雰囲気で満ちていた。
執行官たちはいつものコミッサのホロを身に纏い、市民たちにこれ以上のストレスを与えないよう細心の注意を払いながら、市民たちを園の外へと誘導する。あまりにも混乱の酷い者については、パラライザーで一旦無力化しての搬送となった。
「それより、朝倉はどこへ行ったんだろうね?出入り口は完全封鎖されてるし、朝倉が外へ出たっていう記録も無いんでしょ?」
縢は、誘導と無力化を続けながら、傍らにいる六合塚へと話し掛けた。残る職員であるところの沢口と瀬戸は、先程征陸がドミネーターで犯罪係数を測定し、規定値以下ということで避難済みだった。しかし、朝倉はどこかへと姿を消している。
「さぁ。どこかに隠れているんでしょう。でも、今は朝倉よりも市民の保護を優先しろって、監視官が言ってたでしょ。」
六合塚は、素っ気なく返答する。
「いや、でもさ。放っとくのもヤバいんじゃない?誰か行かなくていいの?」
「朝倉は今、職員の簡易休憩所の中にいるみたい。そこの出入り口は、既にドローンが封鎖してるから、外に出る心配は無いわ。これが落ち着いたら向かうことになるんじゃない?」
「いや、それはそうだけどさ……。」
縢は、言いながらも市民を捌(さば)いていく。
それから実に1時間以上が経過してようやく、応援の三係が、市民の保護を引き継ぐことになった。付近の交通にも影響が出始めていたのだ。しかし、サイコハザードが起こっていることを、園の外へ悟られてはいけない。そのために、三係の到着が遅れたのだった。
『あとは三係が引き継ぐ。よって全員、園北東部にある職員の簡易休憩所に向かえ。』
宜野座からの短い通信が途切れ、狡噛、征陸、縢、六合塚が一斉に簡易休憩所へと向かう。