第49章 御伽話 Ⅴ
『朝倉さん?』
甘い、マキシマの声。“優しい”のではない。ただひたすらに“甘い”声。この声は、さながら甘い毒だ。口にするだけで体を侵す毒よりも、まだ質(タチ)が悪いかもしれない。――――声というのは不思議なもので、耳を塞いでいる時でさえ、“聞こえる”ことだってあるのだから。この甘い毒は、耳に入ってしまったら最後、理性のタガを外し、正気を蕩(とろ)かせるものだ。朝倉にとって、その毒はとっくに致死量を超えていた。
「……。今まで、付き合わせてしまって、ごめんなさい。……、でも、もう……、もう、いいんです…………。私なんかに付き合ってくださって、ありがとうございました。…………。わたし、とっても……、嬉しかった……です。」
朝倉の乾いた唇から零れ落ちた、言葉。それは、本心でもあり、諦観でもあった。朝倉の目にはもう、光の入る余地はなく、涙も出なかった。
『そうか。いや、それならもういい。君はもう“自由”だ。』
マキシマは、そう短く言い放って、通話を終了させた。