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シャングリラ  【サイコパスR18】

第49章 御伽話 Ⅴ



 “次”――――そう言われて、朝倉はふと立ち止まった。真鍋を殺害した今、自分は“次”にどうするべきなのか。無論朝倉とて、システムに対する不条理や、真鍋に対する憎悪を抱きながら、真鍋を殺した。しかし、多少なりとも胸のつかえが下りたところで朝倉の胸に残ったのは、言い様の無い虚無感だった。真鍋をこの世から消したことによる、言い様の無い虚無感。この虚無感は、突如としてどこからともなく朝倉に飛来したものではない。恐らく、朝倉自身、自分でも気が付かないうちに、慢性的に抱えていた感情だった。自分はどうして、何を目的にして生きているのか。どうして自分はこんなにも非力で、何もつかめないのか。この社会では、シビュラシステムが人生を見守ってくれる。……文字通り、母親の子宮というゆりかごから、管理の行き届いた墓場まで。システムが築き上げた柵の中では、安心と安全を享受し続けることができる。それはさながら、鳥の巣にいる雛鳥(ひなどり)が、親鳥から無条件で餌を受け取ることができるようなものだ。しかし、そこから少しでも外れてしまうと、非力な自分が追いかけてくる。システムから外れた瞬間、シビュラは平穏を与えてくれなくなるのだ。肉体的にも、精神的にも。結果、自らの非力さや、ともすれば奇異性を、嫌でも自覚することになるのだ。朝倉は、恐らくはシビュラシステムに反して恋愛相手を選ぼうとした時点で、そういった虚無感を抱えることを運命づけられていたのだ。しかし幸か不幸か、朝倉の心はつい今朝まで、真鍋への憎しみで塗りつぶされていた。それが多少なりとも無くなった今、むしろその虚無感が朝倉の心を、大きく占め始めていた。

(私……、何してるんだろう……。)
 朝倉は、あれだけ感情を剥き出しにして、真鍋に対して暴虐の限りを尽くし、死に至らしめた。そこに一切の迷いは無かった。しかし、空虚を自覚した朝倉の精神は、限界を迎え始めている。

(もう、いい……。もう、いいや…………。)

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