第49章 御伽話 Ⅴ
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不意に、朝倉の端末が鳴動した。
「うわっ!?」
朝倉は突然のことに驚き、持っていたアイスコーヒーを落としそうになった。コーヒーは落ちることは無かったが、その衝撃で少し中身がこぼれ、制服の白いズボンに、小さくシミを作った。それよりも、電話だ。朝倉は一旦コーヒーを脇へやり、端末を確認する。
(マキシマ、さん……。)
通信を行ってきたのは、マキシマだった。朝倉は、すぐに応答した。
『お疲れさま。首尾はどうかと思って。今、通話は大丈夫かな?』
「はい。大丈夫です。ありがとうございました……。その……、何から何まで……。」
幸いにも、今朝倉がいる休憩所は密室で、監視カメラの類も無い。職員専用の簡易休憩所に、突然誰かが入室してくるとも考えにくい。そもそも、公安局が目を光らせているこの状況で、職員の誰かがわざわざこんな場所で朝倉と過ごすとも考えにくい。
『気にしなくていい。真鍋杏は死んだ。君が殺した。それよりも、“次”はどうするつもりなのか、知りたくて、電話したんだ。』
マキシマは、真鍋が死んだ―――――――朝倉の手によって殺されたことなど、まるで頓着する様子が無い。当然である。今のマキシマの関心事は、少なくとも朝倉が真鍋を殺害したという事実ではない。システムに守られたこの「社会」に人間の「意志」をぶつけてみたかっただけなのかもしれないし、人が人を殺すというその行為を見て快楽したかっただけなのかもしれない。或いは、この「社会」にいながら、なまじ強い「意志」を持ってしまったが為に、理想と現実の狭間で葛藤する朝倉自身を観察したかっただけなのかもしれない。その答えは、マキシマ自身にしか分からない。
「“次”……、ですか……?」