第5章 名前
「いただきます。」
両手を合わせて、ご挨拶。妙に緊張しながら、きゅっと目を瞑って「料理」を一口、口へと運ぶ。
「おいしい……!」
感動した。一言で表現するなら、この一言に尽きる。公安局の食堂で得られた感動とは、比べ物にならないくらいの、感動。生まれて初めて食べた、天然の食材を使った「料理」。
「かがりさん!これ、とってもおいしいです!」
興奮のあまり、そう口にせずにはいられなかった。それほど、目の前の「料理」は、美味しかった。直接、私の五感に働きかけてくるような、そんな錯覚を覚えるほどの衝撃。大袈裟かもしれないけれど、それぐらい。
「ね?オートサーバーとは比べ物になんないっしょ?」
かがりさんは、私の反応に満足そうだった。
「うん!おいしい、ありがとう、かがりさん!……あっ」
うっかり、丁寧語で喋るのを忘れていた。
「ごめんなさい、馴れ馴れしいですね。」
かがりさんは、一瞬キョトンとした表情になったが、すぐにいつもの表情に戻った。
「別に、気にしねぇよ。俺、敬語って堅苦しくて苦手だし。それに、俺ら多分同い年ぐらいっしょ?ちなみに俺はハタチね。次の誕生日で21になんの。」
そうなんだ、かがりさんの方が年下なんだ。職場で、明らかに自分よりも年上の執行官の人のことをあだ名で呼んでいたから、自信が無かったけれど、これでハッキリした。
「私とは学年で言うと1つ違いになるかな。私の方がお姉さん?」
「何言ってんの。落ち着きのなさから言って、俺の方がまだ人生の先輩~って感じでしょ。」
かがりさんは、余裕の表情。何だか悔しい。多分当たってるだろうけど、言われっぱなしというのも、私の方が年上と知った今、カッコ悪いような気がして。
「そうやって、自分の方が上とか主張するのって、子どもっぽいよ。」
「その子ども相手に慌てふためいてたのは、どこのお姉さまでしょ?」
ご飯を食べながら、かがりさんは余裕をもっての反撃。私は、食べていたタコライスを妙に吸い込んでしまい、むせた。それも、派手に。勝負は一撃で決着がついた。
「ぅ、けほ、げほ、は、ぁ、―――んっ!」
かがりさんは、くつくつと笑いながら、お茶の入ったコップを差し出してきた。お茶を飲みながら思った。かがりさんには、ばれていないと思っていたけれど、さっき私がドキッとしたことは、どうやら見破られていたらしい。