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シャングリラ  【サイコパスR18】

第48章 御伽話 Ⅳ



 朝倉は、まるで魔法にでもかかったように、話し始めた。朝倉が2年前に沢口と出会い恋に落ちたことを。シビュラシステムが引き合わせた相手ではなかったが、それでも恋人として付き合い始めて、不器用ながらも2人で愛を育てたこと。しかし、その幸せはシビュラシステムによって導かれた真鍋によって壊されたこと。システムがもたらすその不条理を、憎悪したこと―――――その全てを話した。その時の朝倉にとって、目の前の人間が一体何者であるのかなど、些末なことだった。どうでもよかったのだ。ただ、社会に対する怨嗟を口にしたかったのかもしれないし、真鍋に対する憎悪を吐きたかったのかもしれない。朝倉自身ですら、何が何だか分からぬうちに、自らの中に押し寄せてくる黒い感情に追い立てられるがままに、マキシマに全てを話した。マキシマは、両手を組み、目を瞑り、相槌すら打たずに、朝倉の声に耳を傾け続けた。朝倉は、一通り話し終えたところで、我に返った。

『……ごめんなさい。マキシマさんには、何の関係も無い話でしたね。……それに私、初対面の人に向かって、何を話してるんでしょうね……。いえ、でも、話を聞いてくださり、ありがとうございました。少し、スッキリしました。えっと……、せめて代金は、私が払います。』
 そう言って、朝倉は席を立とうとした。
『それで、君は本当に気が済んだのかな?』
『―――――っ……?』
 マキシマはゆっくりと目を開き、そのまま朝倉を、その視線で射抜いた。朝倉は、何もしていないのに、蛇に睨まれた蛙だった。そこから立ち去るどころか、少しも動けなかった。
『その昔、人々は自ら考え、自らの意志で行動していた。何も、恋愛に限った話じゃないけれど。だが今は、自らの意志を持つ人間は極めて少ない。当たり前だ。“自らの思想や意志を持つ”ことは、この社会において全く必要のないことになってしまった。』
『え、あ……?』
 朝倉はそのまま動けずにいるが、マキシマは変わらずに言葉を続けた。
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