第48章 御伽話 Ⅳ
朝倉が気付いた頃には、周囲の景色はもう、市街地のそれではなかった。それでも、目の前の白い男は、そんなことはお構いなしとばかりに、歩き続けた。
自分が今いる場所は、多分廃棄区画だ―――――朝倉はそう思った。やがて、白い男の歩みは止まり、朝倉も立ち止まった。廃墟が立ち並ぶ中、ぼんやりと明かりのついた建物があった。白い男は、引き戸を開け、朝倉にも入るように促した。店の外観からは分からなかったが、内装を見る限りどうやら喫茶店らしかった。カウンターには、店員らしき若い男が立っていたが、白い男と朝倉の入室など、意にも介さぬといった様子だった。
『アイスコーヒーを。』
席に座りながら、白い男が口を開いた。
『同じもので構わないかな?』
白い男が、やっと再び朝倉に声を掛けた。
『え、あ……、はい……。』
『座りなよ。ここは喫茶店だ。』
うろたえる朝倉とは対照的に、白い男は随分と落ち着いている。こんな廃棄区画で、座りなよと促されたところで、朝倉としてはどうしてよいやら分からなかったが、言われた通りに席に着いた。しかし、相手の名前も分からないこの状況で、一体どうすればいいのか――――――朝倉が途方に暮れ始めたその瞬間、白い男が口を開いた。
『僕は、槙島。―――――槙島聖護だ。好きに呼んでくれて構わない。』
優雅な微笑みを僅かも崩すことなく、マキシマ――――そう名乗った男は、静かに朝倉と目を合わせた。
『マキ、シマ……。マキシマ、さん……。』
朝倉は、自分でも意識しないままに、聞かされた名前を口にした。自動で動く、朝倉の唇。
『先程の君は、只ならぬ雰囲気だったけれど、何があったのか―――――僕に聴かせてもらえないだろうか?』
そう言って、マキシマは笑みを深めた。
『あ―――――……』