第48章 御伽話 Ⅳ
『だが、君は違う。自らの意志で行動し、その結果を、その身をもって経験した。これは、尊いことだと、僕は考える。そこに、人の魂の可能性を見るんだ。』
朝倉は、マキシマの黄金の瞳にゆらりと炎がともったような、そんな気がした。それにしても、「意志」だの「魂」だの――――この人はいったい何者なのだろう、朝倉は頭の片隅で、そんなことを思った。それに、突然「魂」がどうのと語り出すとは、一体どういうことなのか。普段の朝倉であれば、その行動の逸脱性に気付き、すぐにその場を後にしたかもしれない。だが、朝倉が考える前に、マキシマは次の言葉を紡ぎ出した。いや――――、もうこの時点では、朝倉は目の前にいるマキシマに何を言われようとも、逃げ出すことなどできなかった。
『この社会に抗ってみないか?』
―――――「社会」?「抗う」?目の前の人間は、何を言っているのだろう?朝倉は、混乱していた。
『簡単なことだ。君が感じた憎悪を、そのまま「行動」として「表現」する、それだけの話だ。』
僕は全面的に協力する―――――そう付け加えて、マキシマは朝倉に、綺麗な笑顔を向けた。それはまるで子供のような、屈託のない笑顔だった。
―――――そう。その瞬間に、朝倉瑠璃の運命は完全に定められたのだ。朝倉は、マキシマに導かれるがままに、真鍋の殺害を決行した。殺害計画の立て方も、殺害準備も、朝倉には皆目見当もつかなかったので、それらはマキシマと―――――後に紹介された外国人、チェ・グソンと名乗る男が行ったのだが。
『私、やっぱりこの社会、どこかおかしいと思います。それに気づくこともなく、平気で他人を傷つけられる真鍋杏も、許せません―――――。』
この言葉と共に、朝倉は犯行に至ったのだった。そして、その言葉を聞いて、マキシマは満足そうに目を細めた。