第48章 御伽話 Ⅳ
1週間前のあの日。その日は珍しいことに、職員全員が早めに終業となった。沢口、真鍋、瀬戸は何やら予定があったらしく、急ぎ足で職場を出ていた。特に何の予定も無かった朝倉は、特に急ぐでもなく職場を出た。久し振りに、仕事帰りに気晴らしをしようと思い立ち、市街地のショッピングモールへ繰り出すことにした。1人で適当にウインドウショッピングを楽しんだ後、そろそろ家に帰ろうと思い、歩き始めた時だった。前方に、会いたくなかった人物の後ろ姿―――――沢口と真鍋だった。しかし、朝倉も周囲に対してそれほど注意を払っていなかったために、気付くのが遅れたのだ。他の通行人もいるが、お互いの距離は、会話ぐらいならば聞き取れてしまうほど近かった。2人は、仲睦まじくデートを楽しんでいた様子で、沢口は真鍋の肩を抱いている。2人は交差点の信号待ちをしている様子で、朝倉には全く気付いていない。
『今日も楽しかったよ、誠也くん!』
弾むような真鍋の声。沢口も、嬉しそうに頷く。
『それにしても、センパイいつまで意地張ってるんだろうね~?シビュラに任せれば、こ~んなに幸せになれるのに。システムを活用しないとか、いつの時代のおばあちゃんかってハナシ!アハハハハ!』
真鍋は、朝倉が自身の背後にいるとは知らず、大声で言い放った。
朝倉の心は、その瞬間に、限界へと達した。朝倉は、決して届くことのない憎悪の視線を、真鍋に向けた。同時に、ドローンが朝倉のサイコ=パスの異常を検知し、朝倉に向けて走行を始めた。――――――しかし、それより早く。