第48章 御伽話 Ⅳ
2年前に、沢口はここ『フェアリー☆ランド』へ配属された。
(あの時の誠也ってば、可愛かったな……。緊張しちゃってて。)
朝倉が沢口の世話を任されたことで、毎日一緒に仕事をした、忙しくも輝いていた日々。その中で、朝倉は沢口に惹かれていった。誠也は、明るくて元気で面白くて、それに一緒にいて楽しい―――――朝倉は沢口といることで、そんな気持ちを抱き始めた。朝倉が、それを恋心と自覚するのに、そう時間はかからなかった。しかし、すぐに想いを告げることは躊躇(ためら)われた。沢口は当時22歳、それに対して朝倉は33歳だった。歳の差は実に11歳。もっと年が離れているのに恋人として付き合うカップルもいるが、朝倉が引け目に感じるには、充分すぎる材料だった。何より、シビュラシステムの後ろ盾があるわけでもない。それでも、日々大きくなっていく、沢口への恋慕。朝倉は自らの想いを沢口に告げるようなことはすまいと心に決めていた。この社会では、恋人も結婚相手も、シビュラシステムが橋渡しをする。朝倉は、年齢が年齢ということもあり、早く結婚適性が出た相手と付き合うように、親からも催促をされていたが、何となく気が進まなかった。それに、結婚適性を調べたところで、そこに沢口の存在も、無かった。それに、シビュラシステムが無かったとしても、こんな年上の女から告白を受けたところで、沢口が混乱するだろうと思えたのだ。それでも、一緒に過ごす日々の中で、朝倉は沢口への想いをより強めてゆき、最後には涙ながらに沢口へ自らの想いを伝えた。断られるに違いない、こんな年増は相手にされない、軽蔑されるだろう―――――そう、恐れながら。
(そう―――――恥ずかしかったけど、思いが通じたあの日……、もう、1年も前になるっけ。懐かしいわ……。)
沢口は、朝倉の想いを受け入れ、交際が始まった。朝倉は、システムではなく、今の自分の気持ちと生きてみたいと願い、口にしたのだ。シビュラシステムに橋渡しされなくても、11歳も離れていても、ふたりは、確かに付き合っていた。