第48章 御伽話 Ⅳ
(まぁ、殺しちゃったけど。)
殺した後は、簡単だった。身に着けていた借り物の服と手術用のヘッドキャップに手袋、凶器のナイフをそのまま犯行現場に置いて、朝倉は何食わぬ顔で、いつも通りに勤務を再開しただけだ。
(不思議な人だわ。あの『白い人』。本当に、言った通りに、証拠だけを持ち去ってくれて、あとは何の証拠だって残さないのだから。一体、どういう仕掛けなのかしら……。)
しばらく考えていたが、いくら考えたところで、朝倉に分かることは何一つ無い。朝倉は考えるのをやめ、ぬるくなりかけているアイスコーヒーを、もう一口すすった。朝倉が瞼(まぶた)を閉じたとき、ふと浮かんだのは、沢口の笑顔だった。半年ほど前には付き合っていた、かつての恋人。今となっては、真鍋以上に遠い存在と言えるかもしれない。そんなことを考えて、朝倉は自嘲気味に口元を歪ませた。それでも、そんな朝倉の胸にあるのは、楽しかったあの頃の、沢口と過ごした日々だった。
別に、特別な恋愛をしていたということは無い。朝倉としては、引け目を感じながらの恋ではあったが。