第48章 御伽話 Ⅳ
あと1時間もしないうちに、本日最後のイベント、夜のパレードが始まる。パレードとはいっても、専用ドローンが特殊なホロを纏いながら園内を走行するだけだ。それでも、特殊なホロを展開させながら、何十というドローンがパレードを行う様子は、来園者を惹きつけてやまない、華やかなものなのだ。
「……。公安局……、ね……。」
職員専用の休憩所でアイスコーヒーを飲みながら、朝倉が独り言を漏らした。朝倉は、パレードを運行させるために、短い休憩時間を終え、もう少しで持ち場に戻らなければならない。それに、パレードの後は、またあの公安局の捜査に付き合わされる羽目になっているのだ。少しでも休んでおかないと身が持たない――――そんなことを考えていた。
「ん……。」
手元のコーヒーが、いつも飲むよりも苦いと感じ、朝倉は使い捨てのコップから一旦口を離した。
「はぁ……。」
そして、溜め息をひとつ。
(私、人殺しなんて……、ほんの1週間前まで、考えもしなかったのに……。)
朝倉の瞳に翳(かげ)が差す。そう、朝倉は今朝、真鍋杏(まなべ・あんず)を自らの手で殺したときのことを思い返していた。生々しい、皮と、肉を、引き裂く感触。カラダの奥底から不快感が這い出て、しまいにはそれが自分の中で渦を巻くというのに、止まらない衝動。朝倉は、自らの中から噴出する感情を律することができず――――或いは、律することを自ら止め、殺人を犯した。朝倉は、今朝の光景を、より鮮明に思い返す。
(まずは、あの女の声を潰したかった。不愉快な言葉しか吐かない、あの口を、もう二度と利けないようにしてやりたかった。だから、まずは首を狙った。でもあの女は、私が首を狙ったのを一瞬で判断したのでしょう。)
真鍋は、自分に跨(またが)る朝倉の腕を左手で抑えにかかり、右手で首を庇った。しかし、真鍋の体勢では結局どうすることもできなかった。朝倉は、真鍋の抵抗が弱まった隙に、頸部へとナイフを突き立てた。邪魔な右手をもろともせず、何度も、何度も、その首へとナイフを突き立てた。朝倉も返り血を浴びたが、そのようなことは気にならなかった。破壊衝動と狂気が渦巻く朝倉は、一心不乱に真鍋を犯し続けた。