第47章 御伽話 Ⅲ
「あ、ハハ―――――、刑事さんって、やっぱりすごいんですね。何でもお見通しなんですね。」
瀬戸は、困ったようにふにゃりと笑った。見れば見るほど、少女のような青年である。
「俺も、情報が欲しいんだ。これでも『仕事』だからさ。……『健康な市民』を守る『お仕事』。」
瀬戸の瞳は、明らかに困惑と躊躇の色を映している。何せ、自分の目の前にいるのは『執行官』だ。自分とは違う、『潜在犯だ』。瀬戸は幾らか迷った後、目の前にいるのが『潜在犯』であっても、『健康な市民』を守る職業人であるのなら、そこに協力するのは当然であると思えた。躊躇いがすっかり無くなったと言えば嘘になる。それでも、自分が知っていることを、目の前の『執行官』に話すことで、より多くの『健康な市民』が守れるのなら、それは自らが取るべき最善の行動ではないだろうか。瀬戸にはそう思えた。だからこそ瀬戸は、1度大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと話し始めた。
「あ、あのですね、刑事さん。今日、な……亡くなった真鍋先輩は、沢口先輩と、付き合っていたんです。それはもうラブラブで、見ているだけの僕ですら、幸せになれるぐらいに。」
瀬戸は、僅かに頬を染めて話している。顔に朱が差しているのは、きっと夕陽のせいだけではない。
「ふぅ~ん……。」
この瀬戸という青年は、随分とまぁ純朴だと縢は感じた。そして、自らの精神構造とは根本的に相容れないものがあるとも感じていた。
「でも、2人が付き合いだしたのは、半年くらい前からだったんです。それまでは沢口先輩、……、朝倉先輩と付き合っていたんです。」
「ふぅ~ん……。」
一般的にこの「社会」において、恋愛や結婚は、シビュラによりコーディネイトされる。それなのに、沢口は恋人を乗り換えたということになってしまう。結婚適性で、朝倉・真鍋の両名が挙がっていた?それも、偶然同じ職場に勤務している女性同士が?その可能性も考えられなくはないが、確率からいって、その可能性は極めて低い。むしろ限りなくゼロだ。