第47章 御伽話 Ⅲ
「あ……、僕も、詳しくは知らないんです。でも、別れを切り出したのは、どうも沢口先輩からだったらしくて……。」
「僕は、去年やっとここに配属されたばっかりで、沢口先輩と朝倉先輩がいつから付き合っていたのかも知らないです。でも、それまでは、沢口先輩も朝倉先輩だって、とっても幸せそうだったんです……!」
半ば混乱しながら、瀬戸が絞り出すように話す。
「ん?じゃあ、訊いていい?そんなに幸せそうなら、なんで沢口と朝倉は別れたんだ?喧嘩とか?」
「そ、そこまでは、分からないです……。でも、ある日を境にして、沢口先輩と朝倉先輩は話すことも少なくなって、代わりに沢口先輩、真鍋先輩と急に親しくなって……。」
縢の質問にも、瀬戸は真摯に答えている。しかし、瀬戸の表情は沈鬱だ。
「ねぇ刑事さん。このことって……、今回のことには……、関係ないですよね?僕の杞憂(きゆう)ですよね?」
瀬戸が、縢に縋るような視線を送る。縢は、瀬戸からの視線を遮るようにして、ふと目を閉じた。
いや、半年前に、沢口の色相が一時的に濁り回復。朝倉の色相は同時期を境にして悪化し、濁った状態が継続していた。さらに、真鍋の色相は、元々状態が良かったが、半年前を境にして、さらに好転している。この際、どうして沢口と朝倉が別れたのかはどうだっていい。いかなる理由があったにせよ、真鍋に沢口を取られたと考えた朝倉が、真鍋を殺したとすれば、この色相の変化すべてに説明がつく。真鍋を殺した朝倉のサイコ=パスが好転しているのにも、説明がついてしまう。……真鍋を殺したことで朝倉の溜飲が下がった、という説明が。
(……もしこの推理が当たってたとしたらさ……、本当、何なんだよ。サイコ=パスってさ。)
誰に問うこともできない、この『社会』においては、抱くことすらナンセンスな問いは、縢の中に浮かんで、小さな苛立ちへと変わり、縢の中、深く深くへと沈んでいく。
「さぁ……。それは、調べてみないと、何とも分かんないけど……。ご協力、感謝するよ。」
縢はそう言って、カフェを退出した。
それ以上、瀬戸の顔を見ることなく。振り返ることもなく。