第47章 御伽話 Ⅲ
そう思ったと同時に、背中からふと声を掛けられた。
『ここは・5時30分が・ラスト・オーダーと・なっております・またの機会に・ご来店ください』
白いカフェエプロンを身に着けた給仕ドローンが、縢に向かって、定型文を投げかけた。
あぁ成る程、席には自分以外に客もいないし、それに席で待っていてもメニューを尋ねにも来ないのは、そういうことだったのかと、縢はひとり納得した。それならば仕方がない。それならば適当にその辺りのドリンクサーバーで何か飲み物でも買って、ついでに売店で甘いものでも買って、控室に戻ろうか――――そう考えた時、店の奥から人影が現れた。
「あ、アンタは―――――。」
店の奥から出てきたのは、数時間前に、ドミネーターによる犯罪係数の測定を拒否した職員のうちの1人、瀬戸祐樹(せと・ゆうき)だった。22歳という年齢の若さもあってか、まだまだ顔には幼さが残っている。
「こ、公安局の刑事さん、ですよね?ホロ、解除してくれて構わないですよ。」
瀬戸の、男性にしては高めの声が、店内に響く。
「いや、一応、コッチも『仕事』なんで。あんまり勝手やると、ウチのおっかない監視官にどやされるし。」
ホロを被ったまま、縢が応対する。
「ここはもう、閉店で、僕しかいません。それに、このカフェ、窓は全てハーフミラーコーティングが施されていて、外からは中の様子が分かりにくくなっていますから。」
瀬戸は、柔らかく微笑みながら、チワワ姿の縢へと話す。瀬戸は、男性でありながら中性的な見た目である。身長はまぁ、それなりにあるので女性に間違われることは無いだろうが、顔立ちだけを見れば、非常に中性的な顔立ちをしている。顔の横でさらりと揺れるショートカットが、さらにその印象を強めている。
「ふーん……。なら、いいけど。んで?ここの職員さんが、俺とおしゃべりしてていいの?園長にどやされるんじゃねーの?」
縢は、ホロを解除しながら、瀬戸の目をじっと見つめた。瀬戸は、縢からの視線を遮るようにして顔を背けた。自分から話し掛けておいたことを考えると、妙な反応と言える。
「アンタ……、今回の事件のコト、何か知ってるだろ?顔に書いてあるよ。」
縢は、そのまま口に出してみた。瀬戸の反応を見るためだ。