第47章 御伽話 Ⅲ
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「夜までまだ時間があるな。公安局一係は、本日の捜査終了まで、この控室を拠点としつつ、捜査を続行する。」
宜野座は、狡噛、征陸、縢にも、屋外での捜査を命じた。ドローンも捜査をしているが、時間・台数に限りがあるうえ、園が広すぎて捜査しきれないためである。ただし、行動範囲は園内のみで、必ず配布されたホロコスを全身に纏う事が条件だ。しかも、ドミネーターの使用はおろか、来園者に聞き込みなどの捜査を行うことも不可能である。正直なところ、この条件で成果が得られるかと言われれば、限りなく不可能である。ちなみに、宜野座と六合塚は控室に残って、情報の分析や本部との通信を行うらしい。
(これで、どうしろって……。)
縢としても、そう嘆きたい気持ちでいっぱいだったが、自分が『執行官』である手前、文句を言えた義理ではない。
ホロコスを被って控室を飛び出したはいいが、何かを探すような怪しい動きをするわけにもいかないし、来園者に聞き込みをすることもできない。鼻を封じられた状態で、「取ってこい」を命じられても、『猟犬』だってどうしていいやら途方に暮れるだけである。無為に時間だけが過ぎ、夕方になってしまった。
(どーしよ。別に、アトラクションで遊べるワケでも何でもないし……。休憩がてらに、カフェにでも行ってみますか……。)
時刻は午後5時30分を少し過ぎたところだった。夜のパレード目的の客が増えだしており、家族連れはぼちぼちと帰路に就いている。
(あのカフェとか、まぁ悪くねぇかな。)
縢の目についたのは、園の端、目立たない位置にある小さなカフェ。比較的装飾も少なく、内装も落ち着いていた。不思議と、客も縢以外見当たらない。
縢は窓際の適当な場所に座り、ふう、と息を吐く。
――――――遊園地、テーマパーク。ついぞ縢には縁が無いまま、彼はたった5歳で『潜在犯』となってしまった。知識としては、遊園地やテーマパークと言った存在を知っているものの、まさかそこに、実際に来ることになるとは、縢は夢にも思っていなかった。……それも、『執行官』―――――獲物を狩る『猟犬』として。
(ん?あれ?給仕ドローンが来ねぇ……。)