第47章 御伽話 Ⅲ
縢は狡噛の言葉に合わせ、ドローンを自分の近くに呼び寄せドミネーターをポンプアップさせた。そのまま縢は銃把を握る。ただし、ドミネーターの電源は入れずに。
冷たい視線を向け続ける狡噛の横で、縢もまた酷薄な笑みを浮かべながら、電源の入っていないドミネーターを本田へと向けた。
「さて、シビュラの判定やいかに?」
縢も、いよいよ悪魔めいた表情と声である。本田に向けた銃口をそのままに、電源の入っていないドミネーターの引き金に指を掛けた。
「ひ、ヒィィィィィィィィィ!!?ろ、6か月ほど前に、ウチのスタッフの間で、……、な、何か人間関係のトラブルがあったらしいですゥゥ……!!」
「成る程な。朝倉と沢口の色相に変化があった時期とキッチリ重なるな。で?具体的には何があったんですかね?」
征陸が、いかにも合点がいったという風に、狡噛の纏(まと)めた一覧表を眺めている。
「あ……、ぁ……、ぁぁ……。わ、私だって、詳しいことは何も知らない、んです……。」
本田はやはり、その場で力なく座り込んでいるだけだった。
「唐之杜、この部屋から、他に何か手掛かりは出てるか?」
狡噛は本田からあっさりと目線を外し、唐之杜と通信を始めた。
「凶器とか、その欠片とかだけでも、見つかったりしてないんスか?」
縢も、普段通りの軽い調子に戻っている。
『これで、ほとんどこの部屋は細かいところまで調べつくしたはずだけど、今のところ血痕以外の収穫は無いわね。勝手口の指紋なんかも調べたけど、特に何も検出されてないわ。犯人が、そこの勝手口から凶器や犯行に使った道具を持ち去った可能性は、まだ残ってるけど。』
「この勝手口付近に、監視カメラは無かったのですか?」
すっかりとへたり込んでいる本田に、六合塚は容赦なく追い打ちをかける。当然のことだ。もしも、ここから凶器を持ち去った人物がいたとすれば、その姿は間違いなく監視カメラに映っているはずだからだ。
「す、すべて公安局本部に、映像資料として送信しています……。」
本田が、おぼつかない手つきで端末を操作しながら、蚊の鳴くような声で返答した。