第47章 御伽話 Ⅲ
そこから出てきたのは、真新しい赤いシミ1滴。その赤は、床の上で独特の存在感を放っている。そして、新たな扉。外へ通じる、勝手口のような扉だった。
「!――――鑑識ドローン!解析だ、急げ!」
宜野座が、ドローンに解析命令を出した。解析結果はすぐに出た。言うまでもない。血痕だった。すぐさまデータが分析室へ送られ、解析された。
『出たわよ。その血、被害者の真鍋杏さんのモノで間違いないわ。』
唐之杜からの通信が響く。
「それに、コレは……。園長、こんな勝手口があったんですね?」
宜野座が、本田を静かに睨み付けた。
「い、いや……、私も、失念しておりました……。あ、いや、本当ですよ?」
「……。」
宜野座が、眼鏡越しに本田を睨み付けた。これはなかなかの迫力だ。
「ヒィッ!?ち、違う!誤解、そう、誤解です――――――!!」
本田は、狼狽して、その場に尻もちをつきながら叫んだ。目には情けなく涙を浮かべており、鼻水も垂れている。
「フン、どうだろうな。大体―――――」
宜野座が、冷酷な表情のまま、本田に詰め寄ろうとした瞬間、横から狡噛が会話に割って入った。
「大体、アンタは、明らかに挙動不審だ。それだけじゃない。アンタは職員個々がドミネーターの計測を拒めるように、「上」と掛け合った。人権問題と言いながらも、その本当の目的は、職員を守る為じゃないんだろう。ましてや、シビュラが謳う社会秩序を維持するためでもない。実際はアンタ自身の管理責任が問われるのを恐れているだけだ。要は、自らの保身を最大優先にしている。ここまでしなければいけないほどには思い当たる節があるんだろう?」
「ち、ちが、ちがう……!わ、わた、わたし、は、ただ……、こ、ここの責任者と、して……!」
狡噛が冷静沈着に、自らの所感を述べているが、その視線は氷のようですらある。本田は狡噛に図星をつかれ、その場にへたり込んだまま、力なく否定しているだけである。宜野座は、その場で固まっている。因みに、他の執行官は、それぞれ全く表情を崩さず、狡噛と本田のやり取りを観察している。
「今、アンタの犯罪係数は、一体幾らだろうな。やましいところがあるなら、シビュラはアンタを『潜在犯』として、『社会』から隔離するかもしれないぜ?」