第47章 御伽話 Ⅲ
「夜までに、出来る限りの捜査を続けよう。」
狡噛が口を開いた。
「うっは~、コウちゃん仕事熱心~。でも、俺も、さっきからずっと……、あの部屋、気になってンだよね~。」
縢は、物置のようになっているらしい部屋の扉をじっと見つめた。
「多分、ご期待には沿えませんよ。先程もご説明致しました通り、そこはただの物置部屋です。ここ数年ほとんど使われておりませんから。」
本田は、しれっと答えた。
「だからこそ、何かある可能性も否定できない。職員しか立ち入りできない部屋で、ここ数年使われていないとなれば、そこは人が立ち入ることもしない空間ということになる。犯人からすれば、凶器等の一時保管場所にも最適な空間となり得る。」
狡噛は、理路整然と言い返した。
「ま、まぁ、刑事さんがそこまで言うのでしたら、開けますけど……。」
本田は、バイオメトリクスの読み取り装置に、自らの左手人差し指をかざした。ドアのロックが外れた音がして、本田はドアノブを回した。電気系統は普通に生きているらしく、オートで明かりがついた。
一係の面々は、狡噛に続くようにして、そこに立ち入った。
部屋は、予想以上に狭く、埃っぽかった。清掃すらもまともになされていない有様で、床張りの部屋には、薄く埃が積もっていた。これほど人が入ってこない部屋であれば、犯行に使った道具――――例えば、凶器などを隠しておくのには、やはりおあつらえ向きだ。小型の鑑識ドローンも、埃っぽい室内に侵入し、捜査を始めた。
「“人”が入った形跡はないな。……、縢。」
狡噛が、近くにいた縢を呼ぶ。
「何?コウちゃ……、あー……、ホントだ。」
縢の口角は、自然に吊り上がっていた。
縢と狡噛の視線の先には、天井まで届きそうなほど背の高い、キャスター付きの古い棚のようなものがあった。しかし問題は、棚があることではない。……無いのだ。その棚の横にだけ、本来なら積もっているはずの埃が。
床上の埃の無い面積は、丁度、棚の底面の形と一致している。
「縢、そっち引っ張ってくれ。」
「りょーかい!」
狡噛と縢によって、背の高い古い棚が、埃の無い場所―――――つまり、本来その棚があったであろう場所へと戻された。
「おい、ギノ――――――!」