第46章 御伽話 Ⅱ
「ねぇ、コウちゃん、どう思う?俺、この結果を見る限り、朝倉って女がどうにも引っかかるんだけど。」
縢が、本田が退出したと同時に、狡噛に話しかけた。狡噛も、縢をちらりと見た。
「何かさ、9か月前の時点では、色相だって超クリアなのにさ、半年前に突然濁って、そのまんまじゃん。」
「まぁ、まだ何とも言えない。」
ふう、と息を吐きながら、狡噛が答えた。
「まぁ、ねぇ……。」
縢はふと、本田が出て行った扉と反対側の扉―――――倉庫のようにして使われているらしい部屋に通じる扉を見た。そう言えば、あの部屋には、まだ入っていない。縢はそう思い立って、扉を回してみたが、ロックが掛かっているようで、扉は固く閉ざされたままで、ドアノブが回ることすらなかった。横に、バイオメトリクスの読み取り装置が付いているところを見ると、どうやら登録された人間の生体認証でロックが解除されるらしい。
「何だ、縢。そこは開かないのか?」
征陸が、扉の前に立つ縢に、声を掛けた。
「そうみたいッスね。まぁ、倉庫だって言ってたから、鍵掛けてる~みたいな感じですかね?」
縢がそう言っていると、縢とは反対側の扉―――――つまり、休憩室や外に通じる扉の方が開いて、本田が再び室内に入ってきた。
「……、すみませんでした。もう、そろそろ職員が全員到着します。」
どうやら、予定よりも早く職員を集合させることができるらしい。
「あ……、さぁ、入って。公安局の刑事さんたちです。ご挨拶を。」
控室に入ってきたのは、色とりどりのキャラクターのフルフェイスホロを被った職員だった。控室に入った瞬間に、フルフェイスホロが解除されて、全員シンプルな装いに変わった。いや、この場合は、変わったというよりは、戻ったと表現するべきなのかもしれないが。
「はじめまして。朝倉瑠璃です。ここの職員をやらせてもらっています。」
最初に挨拶をしたのは、見た目にも若い女性だった。お辞儀をした瞬間に、肩までストレートに伸びた髪が、さらりと前に垂れた。声も、ふんわりと高い、まさしく女性といった感じだった。話し方もゆっくりとしており、ある種の気品すら感じられる。