第46章 御伽話 Ⅱ
「次、行きます。4人目、沢口誠也(さわぐち・まさや)さん。24歳の男性です。」
色相は、基本的にクリアカラーで推移していた。6か月前に色相が僅かに濁っているが、それほど問題になるレベルでもなく、次の健診を受けるころには完全に回復していた。それからは、クリアカラーを保ち続けている。
「最後ですね。瀬戸祐樹(せと・ゆうき)さん。22歳の男性です。」
1年間ほとんど色相が変化することなく、安定してクリアカラーだった。
「この中で、色相が濁っていると言えるのは、朝倉さんだけですね。園長、ここ半年で、彼女に何かあったのですか?こう……、仕事面で悩みを抱えているとか、プライベートで不幸ごとがあったとか……。」
宜野座が、本田に問う。
「いえ……、私には分かりかねます……。朝倉に限らずここの職員は全員、非常に真面目な勤務態度です。勤務中に問題を起こしたことも、過去一切ありません。それに、私の知る限りにおいて、朝倉がご家族のことで悩んだとかいうことも、一切聞いたことがありません。両親も存命と聞いていますし……。」
「そうですか……。では、ここの職員全員に、ドミネーターによる、犯罪係数の測定をさせてください。犯罪係数は、シビュラシステムにしか判定できません。検診でどのような結果が出ていようとも、サイマティックスキャンを欺くことはできない。」
「……!」
宜野座の言葉に、本田は息を呑んだ。もし、宜野座の言う通り、職員ひとりひとりにドミネーターが向けられ、規定値を超える犯罪係数が検出されでもしたら、それは責任者である本田の管理不行き届きとなる。それは、本田にとって非常に不都合だ。
「か、監視官は……、ウチの職員を犯罪者扱いするおつもりですか!?」
本田が、宜野座に噛み付く。
「いえ?むしろ、犯罪係数に問題が無ければ、それはその職員の無実が証明されることになります。シビュラによる犯罪係数の測定は、この社会において絶対的なのですから。」
宜野座は、怯むことなく本田に言い放つ。その瞳には確固たる自信があった。
「ぐ……、で、ですが……、こ、これは人権問題―――――そう、人権問題です……!」
本田は、それだけを絞り出すように言うと、一旦部屋を出た。