第5章 名前
「んじゃ、俺は晩飯作ってくるから、遊んでていいよ。20分ぐらいでできると思うからさ。」
「20分?」
流石に少しかかり過ぎではなかろうか。
「ん?あぁ、俺はオートサーバーなんて無粋なモンは使わないの。正真正銘の料理には、それなりに時間がかかんの。」
オートサーバーを使わない?正真正銘の料理?
「え?かがりさんは、お料理ができるんですか?」
私の祖父母の年代の人間なら多少はやっていたらしいが、少なくとも私の親の年代で料理をする人はほとんどいない、と思う。私と同じぐらいの年齢にしか見えないかがりさんが、料理?
「そ。オートサーバーのメシなんて、マッズイだけ!」
かがりさんは、言い切った。
「ふーん……?」
オートサーバーの食事をマズイと一言で切り捨てる人間は初めて見た。私は毎日、公安局内にある食堂のメニューを、あんなにも感動しながら食べてるのに。
「とにかく、今からちょっとばかし時間かかるから、悠里ちゃんはピンボールで遊んでて!飽きたら、別のもテキトーに弄っていいからさ。」
かがりさんは、そう言ってキッチンのカウンター奥へ行ってしまった。
「あの、何かてつだ……」
言いかけて気付く。私、料理なんてやったこと……
「ん?悠里ちゃん、料理なんてできんの?」
時既に遅し。かがりさんは、悪戯っぽい笑みを浮かべていた。
「できないです……。」
私は、かがりさんの背中を見送ることしかできなかった。