第42章 メイド・イン・ラブ Ⅰ
「アレはね、まぁ、100年ぐらいかねぇ?それほど前には、サブカルチャーとしては、まぁ、それなりには人気があった服だよ。」
100年?一体、この老婆は幾つなんだろうか?気になったが、話を逸らすのは勿体無い気もしたので、黙っておく。
「100年前のサブカルチャー?」
「あぁ。坊やは知らなくて当然だよ。わたしだって、そうそう詳しい訳じゃない。聞いた話で申し訳ないけど、その昔には「メイド服」なんて呼ばれていた服らしい。まぁ、それだって、原型(オリジナル)ではないんだろうけど、生憎、その歴史は調べられないからねぇ。」
あぁ、そうだ。基本的に、この社会に「歴史」教育は存在しない。シビュラシステム確立後の歩みならばともかく、シビュラシステムが導入される前の「歴史」を「正確に」調べることなんて言うのは、困難――――というよりは、ほぼ不可能だ。検閲済みの―――――――毒抜きされまくった「歴史」データベースにアクセスすることはできても、その行為は「歴史」を「調べる」と言えたものではない。そもそも、このご時世で「歴史」を研究なり調査なりすること自体、無意味で無価値なものとされているではないか。
「ふーん……。ねぇ、「メイド服」って、何ですかー?」
それではせめて、素朴な疑問だけでもぶつけてみる。答えが返ってくるかは不明だが。
「あぁ、わたしも聞いた話で申し訳ないけど、本来は仕事着だったらしいねぇ。」
「は?」
あの、フリフリしたスカートとレースの付いたワンピースが、仕事着?一体全体、どういうことだ?
「よく分からないけど、その昔には、家事をするときに女性が着用したらしい。まぁ、アレだね。他人様のお世話をするときに、女性が仕事で着用していたと言えば、分かり易いかね?」
「ふーん……。」
確かに、エプロンっぽい部分も、無い訳ではない。ただし、動きやすさと機能性からみれば、疑問が残るが。