第42章 メイド・イン・ラブ Ⅰ
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「あ、やっぱ服売ってたんだ……?」
独り言ちながら、店内を見回す。街の中にありながら、ホロコーディネイトではない、本物の繊維でできた服を売る店。店内は狭かったが、売られている服は多種多様、といった感じ。あと、これは予想だが、この店は多分、利益よりは店主の趣味や趣向で営業されている。男性用の服と同じラックに、どう見ても女性用にしか見えない服が陳列されている。手作りなのか既製服なのかは定かでないが、珍しい陳列の仕方だと思う。というか、普通の服屋なら、こんな配列はしないだろう。ネットショッピングですら、こんな不親切な商品レイアウトはしない。
「いらっしゃい。……、おや、お客さんかい?」
店の奥から、しわがれた声。
「おじゃましてます。」
軽く会釈をして、声がした方向を見る。薄暗く、狭い店の奥から出てきたのは、年老いた女性だった。風貌だけを見ても、「初老」などといった感じではない。明らかな「老人」だ。
「……、いらっしゃい。お客さんなんて、珍しいねぇ……。」
言いながら、老婆は嬉しそうに笑った。
「まぁ、ココはわたしが趣味で開いてるだけの店だから、構わないけどねぇ。まぁ、アンタみたいな若い子には珍しいと思うし、好きに見て行っておくれ。」
老婆は、そう言って、店の奥へと踵を返した。
あぁ、やはりこの店は、この老婆の趣味だけで経営されているらしい。それにしては、置いている服のサイズもデザインにも、全く一貫性が無い。Tシャツもあれば、ワンピースもある。ホロ対応している繊維か、パッと見では全く分からないが、フリルやレースなどといった細かな装飾がついている服が目立つあたり、恐らくは多くの商品がホロ対応していないだろう。
その中でも、俺の目を引いたのは、ワンピースとも何とも表現しづらい、レースが大量にあしらわれた、女性用の服。
「ね、おばあちゃん。あの服、珍しいね。」
木製のハンガーに掛けられた服を指さしながら、老婆の背中に話し掛けてみた。
「あー、アレね。ハハ、何だい、アンタ。あの服に興味があるのかい?」
老婆は、振り向きながらニコリと笑った。薄暗い中でも分かるほどに刻み込まれた顔面のしわから、老婆が相応に年老いていることが分かる。