第5章 名前
「えっと……」
キョロキョロと、室内を見まわしながら、ゆっくりと足を進める。見たこともないもの、珍しいものに、私は驚くと同時に興味が湧いた。
「あの、かがりさん、これ、何ですか?」
私が指差したのは、ガラスの中に、釘やら装飾やらがたくさん入っている、不思議な筐体。こんなの見たことが無い。
「ん?まぁ、普通は知らないよね。これは前世紀、んー、もっと前かなぁ?とにかく、百年以上前に流行した、ピンポールっていうゲーム、かな。」
「ゲーム?」
ゲーム、という言葉から私が連想するのは、もっとデジタルなもの。携帯ゲーム機とか、タブレットとか、オンラインでするもの、っていうイメージしか持っていない。これもゲームだなんて言われても、遊び方の見当すらつかない。
「やってみる?」
かがりさんは、私の顔を覗き込みつつ、ニヤリと笑った。一方の私は、やってみる?なんて誘われても、遊び方も分からない状態。さすがに腰が引けてしまう。
「でも……。」
「んじゃ、俺がやってみるから、試しに見てみる?」
私が、こくこくと頷いて、筐体の前から一歩離れた。かがりさんは、手早くピンボール筐体の電源をつなぎ、電源をオンにした。
ピンボール筐体の中に仕込まれていたのであろう、カラフルなライトが、一斉にチカチカと光り出した。
「わ、わぁ……!綺麗……!!」
ホログラムイルミネーションとはまた違う光。『本物』の「電飾」の光。
「でしょ?」
顔はピンボールに向けたままだけど、かがりさんは少し上機嫌。かがりさんが手慣れた様子でスタートボタンを押すと、ガション、という音とともに、3センチにも満たないであろう鉄製のボールが何個か出てきた。かがりさんがもう一度別のボタンを押すと、鉄球は勢いよく台の上部に打ち上げられた。それが、台の中で複雑にぶつかり合って、複雑な軌道を描きながら、台の下部へと落ちてくる。