第5章 名前
「えっと……?」
「執行官隔離区画、執行官宿舎。」
うーん、と軽く伸びをしながら、かがりさんが答えてくれた。
「執行官、隔離、区画執行官宿舎……。」
かがりさんから発された言葉を咀嚼するようにして、繰り返す。―――――『隔離』。その言葉が、重い。
「俺ら執行官は、どう足掻いたって『潜在犯』。だから、自由に公安局の外で暮らすなんて出来ない。だから、公安局隔離区画内の執行官宿舎で暮らしてんの。」
かがりさんは、私が発した言葉のニュアンスを聞きわけたのだろうか。分からないけれど、ジャストの切り返しにドキリとした。
いつの間にか、かがりさんの『おウチ』の前まで来ていたらしい。刑事課のオフィスから、むしろほど近い場所に、かがりさんの『おウチ』はあった。
「いらっしゃい。ま、全然気とか遣わなくていいから。」
ドアは、抵抗なく開いた。執行官は、公安局にとって重要な事件も多く捜査しているはず。鍵の一つでもかかっているのが自然だと思うけれど、ロックのための設備は見当たらない。もしかしたら、生体認証か何か、高度な技術が隠されていて、かがりさんにしか開けられないようになっているのか。
そんなことを考えていたら、センサーが感知したのだろう。オートで部屋の明かりがついた。
「!」
部屋の内装を見てビックリした。
「なに、ここ……?」
私の目に飛び込んできたのは、ビリヤード台に、何かのゲーム機、だろうか?よく分からないけれど、その雰囲気から、ひどく前時代的な―――――時代錯誤と表現しても差し支えないレベルの遊び道具だと予想できた。それに、キッチン?カウンター?さらに床には、最新の携帯ゲーム機や、そのソフト類が転がっていた。この空間は、何と表現してよいのだろうか。