第40章 ふたり

　もう、隠せない。隠したくない。隠さないでいたい。というか、あんなに派手に号泣しておいて、今更恥ずかしいとか言う方が恥ずかしい気もする。
「……、前に、ね。秀星くんが、ここで……、私に……」
　私は、片手でシーツを撫でながら、話す。躰の一部を動かしていないと落ち着いて話も出来ないのかもしれない。
「その、私に……、「触って」……、くれた、でしょ？」
　シーツを撫でる手を止めて、今度はシーツをきゅっと握った。
「うん……。」
　秀星くんは、若干躊躇（ためら）い気味に頷いた。この話は、ここでやめた方がいいのかもしれないけど、もう手遅れ。止めたくない。
「あの時は、本当に……、びっくりした……。」
「あ～、うん……。」
　秀星くんは、少し居心地が悪そうにしている。
「あ、その……、嫌とか……、そんなんじゃなくて……！」
「うん？」
　秀星くんは、反応に困っている？
「むしろ……、その逆で……、ぁ……。」
　どうしよう、言葉が続かない。
「……。」
「……。」
　流れる短い沈黙。それを先に破ったのは、秀星くんだった。
「ね、続き、きかせてよ。」
　やわらかな声。秀星くんの言葉は、誘い水だ。滑らかに発せられた音は、私の胸にすっと溶けるよう。
「わたし、ね。もっと、秀星くんに触ってもらいたいし、私も触りたい。」
　言った。言ってしまった。もう、取り返しがつかない。私は、秀星くんの顔なんて見えない。恐らく、秀星くんも私を見てはいない。
「―――――」
　すっ、と微かに息を吸い込む音。そして、ふぅ、と息が吐き出される音。あぁ、秀星くんが息を吸って、吐いたのか。
「――――――うん。悪くない。っていうか、嬉しい。スッゲー嬉しい。」
　秀星くんの声は、透き通るように綺麗だった。その声に弾かれるように、私は秀星くんを見る。
「ぁ……！」
　秀星くんは、心底嬉しそうに、眉を下げて笑ってくれている。
「でも……、でもさ、俺……、『執行官』じゃん。明日にはどうなるか分からない身の上でしょ？「責任」なんて取れないし、「保障」もない。」
　秀星くんは、穏やかに、それでいて諦めたような声で言葉を繋げた。
「あ、でも、こうやって、悠里ちゃんが一緒にいてくれんのは、スゲー嬉しい。」
　そう言いながら、秀星くんは顔をこちらに向けた。