第5章 名前
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「じゃあさ、ウチで晩飯でも、どう?」
かがりさんからの言葉が、お誘いであるということを理解するのに、数秒かかった。
「…………え?ご飯ですか?はい、喜んで!」
食事の誘いであるということを数秒かかって理解した次の瞬間、慌ててOKの返事をしたが、よく考えたら、かがりさんのセリフには「ウチで」という単語が含まれていた気がする。聞き間違い?
そんなことを考えていると、間もなくトレーニングルームにドローンが到着して、残骸は破片一つ残さずに処理された。ドローンは相変わらず仕事が早くて正確だなぁ、なんて思っていたら、管財課のデバイスも同時に返却するようにドローンに要求された。ドローンが管財課に返却しておいてくれるらしい。何とも気が利く。そして私が持出し用のデバイスをドローンに渡すと、瞬く間に去って行った。これで、ひとまず本日の業務は終了となる。
「んじゃ、行きますか。」
かがりさんは、歩き出してしまった。歩くスピードはそんなに速くない。もしかしたら、私が付いていけるように、スピードを加減してくれてるのかもしれない。
「ちょ、どこに行くんですか?」
かがりさんに追い付けるように、普段の私より少し早いペースで歩く。
「ウチで晩飯でしょ?」
言いながら、かがりさんが向っている先は、公安局の出口へとつながるエレベーターとは明らかに違う方向。
「え?こっち?」
「うん。こっち。」
かがりさんは、変わらないペースで歩き続ける。よし、追い付いた。