第40章 ふたり

「ぁ……。」
　恐怖は感じない。でも、緊張している。秀星くんが、次に何を言うのか、全く予想ができない。
「何、が……？」
　私が言えたのはこれだけ。
「何が、じゃないでしょ。」
　秀星くんの表情からは、やはり表情が読み取れない。
「最近、俺の部屋に来てもわりと上の空だし、時々今みたいに沈むよね？なんで？」
「……、っ……」
　言葉が出ない。というか、見破られていた。私の様子がおかしいことは、秀星くんに気付かれていた。そりゃあ、そうだよね。若いどころか私よりも年下だけど、刑事さんだもんね、秀星くん。あ、いや、この場合は関係ないか……。
「だんまり？言いたくないコト？……俺には言いたくない？」
「違……！」
　反射的に否定してしまった。秀星くんには言えない事なのに。馬鹿だな、私。
「じゃあ、話してよ。」
　秀星くんからの表情は、今も読めない。
「……。」
　困ったな。秀星くんにはきっと、私なんかの嘘は通用しない。多分、見破られる。それに、見破ってほしい。狡い私なんかに騙されない秀星くんでいてほしい。ううん、汚い部分も理解した上で、私を抱き寄せてほしい。……何考えてるんだろう、私。もう支離滅裂だ。
「言えないの？何？もう、俺の部屋に来るのは……、嫌？『潜在犯』……ううん、『人殺し』の部屋に来んのが嫌になった？」
「違う！」
　反射的に、それでも全力で否定する。秀星くんの感情が、僅かに動いた、ような気がする。表情は何も変わらないけど。私の視線は、また下へと下がった。
「じゃあ、なんで……？」
「……それは……。」
　回答がまとまらない。仮に、うまくまとまったとしても、口になんて出せない。
「……やっぱり、そっか。最近、悠里ちゃんあんまり俺と目ェ合わさないし、あんまり笑わない。悠里ちゃんといて楽しいのは、俺だけってこと、か……。」
　慌てて、秀星くんの顔を見る。目が合った。秀星くんは、困ったようにくしゃりと笑った。笑ってる。秀星くんが笑ってる。でも……、でも、今にも泣きそう……？私が、……私が、秀星くんに、こんな顔させてるの……？そう思ったら、なぜか私がいっぱいいっぱいになった。目が熱くなって、涙が溢れた。私の感情は、私の心はこの瞬間に、もう許容量なんてものを完全に超えてしまった。