第39章 ヒトリ
ちゅ、と音を立てて、男性がアバターの乳房にキスを落とす。こんなSE(効果音)まで、こんなにリアルなんだ……。当然、感触は伝わってこないけど、視覚と聴覚がやたらとリアルな情報を受け続けているせいで、まるでここにいる自分が、目の前の「男性」に触れられているような錯覚に陥る。
「男性」は、アバターに覆いかぶさったまま、胸に貪り始めた。「男性」の生々しい口の音がVRゴーグル内に響く。
「っ……。」
……ここにいる私まで、ウズウズする。下半身がきゅうっとなって、椅子に腰かけている両足が、もぞもぞと勝手に動いた。そのまま、思わず太腿を擦り合わせる。
『ハァ……、ハァ……。』
「男性」は呼吸を荒くしながらも、乳房から顔を離した。今度は、アバターの下半身へと手を伸ばす。スカートのホックを外したところで、ふっと笑った。何だか、邪悪な笑いだった。
「男性」は、薄いタイツを脱がすのではなく、引き裂き始めた。黒いタイツの所々が破けて、そこからアバターの肌が覗く。―――――うん、女の私から見たって、随分と刺激的な光景だ。アバターは、眉を下げて、瞳に涙を溜めながら、おびえたような表情で「男性」を見つめている。アバターが荒い呼吸をするのに合わせて、形の良い胸がせわしなく上下している。
『君が激しくと言ったんだ。責任は取ってもらうよ。』
余裕を乗せて、「男性」の口元がゆったりと吊り上がる。「男性」は、先程にも増して、アバターの胸に激しくむしゃぶりついた。アバターは全く抵抗する様子もなく、まさしくなされるがまま、といった感じで「男性」の行為を受け入れている。
「……、っ……、……。」
思わず、私はVRグローブの片方だけを外して、そのまま自分の胸に手を伸ばした。あーあ、もう、何をやってんだか。これじゃあまるで、自慰だ……いや、「まるで」じゃない。まさしく自慰そのものだ。「自分」で「慰める」と書いて「自慰」。秀星くんに触ってもらえなくなったから、その分の寂しさを、文字通り「自分」で「慰めて」いる。これを、自慰と言わずに、何と言うのか。胸の奥から、恥ずかしさとも後ろめたさとも取れない感情が込み上げて、私を追いかけてくる。いや、でも、そもそも、こんな「行為」自体は、初めてでも何でもない。今更、誰が見ているわけでもないのだから、純情ぶる必要は無いハズなのに、変な私。