第39章 ヒトリ
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今日は秀星くんに会えなかったから、仕事が終わってすぐに帰宅して、お風呂に入って、あとは明日に備えて寝るだけ。就寝にはまだ少し時間がある。
「…………っ」
PC(パソコン)の電源を入れて、VR(ヴァーチャル・リアリティ)ゴーグルと、VRグローブを装着する。匿名でログインして、サイトにアクセス。
……これでいいや。あんまり説明も読まず、適当に無料のものをダウンロード。こんなデータでPCの内部メモリーを圧迫したくはないから、外付けのメモリーに一時保存。あとは、データを展開すればOKのはず。
ロード画面なんて一瞬映っただけで、ソフトはすぐに起動した。VRゴーグルから、ジャズ風の音楽が流れてきた。無料のソフトにしては、音質が良い。インターフェース画面が出てきて、自分のアバターを設定する。使い捨てのアバターだ。そんなに凝って造り込む必要もない。性別や髪型、体型を自分と同じぐらいに設定して、細部やカラーリングは適当にカスタマイズ。オプションも適当に設定して、準備完了。そして、登場してきた男性。勿論、実在の人物ではなく、丁寧に造りこまれたポリゴンデータだ。整った顔立ちに、肌理(キメ)細やかな肌。黒いズボンに、上は水色のワイシャツという、定番ながら女子が好みそうな、清潔感のある服装。特にオプション設定をしていない限り、デフォルトのこの服装になるらしい。よく分からないけど。
『さぁ、夢のようなひと時を過ごしましょう。』
華麗な微笑みと共にVRゴーグルから聞こえてきた声は、甘く爽やかだった。それでいて、独特の色気があるような……。それにしても、ものすごくリアルな声。集中して聴いても、肉声と全く区別がつかない。それに、息遣いや息継ぎの音まで、本当にリアル。あぁ、そう言えば使用されている音声は、完全な合成音声ではなく、実在する声優さんの声を元にして音声を製作したって、どこかに書いてあったっけ……。まぁ、どうでもいいけど。それにしても、VR空間にいる男性が、本当に傍にいるみたい。―――――いや、実際のところは、「男性」が「私の傍にいる」のではなく、「私のアバター」が「VR空間に居る」のだけれど。