第37章 願い

「おっ待たせ～～！」
　秀星くんは、右手にクッキー、左手に自分のマグカップを持って、トレーニングルームに入ってきた。狡噛さんは、秀星くんにやや遅れて、両手に紙コップを持って入ってきた。
「ハイハイ、座って座って～！俺特製、ホワイトチョコチップ入りクッキー！」
「こっちは普通の紅茶だ。片方はストレート、片方はミルク入りだ。」
「新田さん、どっちが好き？」
「え、あ……っと……」
　新田さんは、私の顔と狡噛さんの顔を交互に見つめてる。
「甘いの、好き？」
「好き、です。じゃあ、その、ミルク入りの……いただいても、いいですか？」
　新田さんが、初めて狡噛さんの目を見た。狡噛さんは、「あぁ。」と短く返事をして、新田さんに紙コップを手渡した。けれど、すぐに顔を逸らした。
「美味しい……、ごちそうさまです。」
「じゃあ、私はストレートで。狡噛さん、ごちそうさまです。今度、お礼させてください。」
「いいよ、こんなもん。お礼なんてされるほどのモノじゃない。」
　狡噛さんはそうぶっきらぼうに返事をした。そして、クッキーを口に放り込んでからミネラルウォーターをぐいっと飲み干した。
「あはは、じゃあ、お言葉に甘えて。」
「ちょっと、俺のクッキー忘れてない？」
　あ、秀星くんがちょっと拗ねてる……。でも、これはこれで可愛い……。
「だって、お茶は冷めるから……。」
「ふーん……。ま、いいけど。ね、ね、早く食べてよ。」
「うん、美味い。ここにあるぐらいなら、全部食い切れる。」
　狡噛さんは、遠慮なく秀星くんのクッキーを頬張りながら言い切った。
「ちょ、コウちゃんには言ってないし！っていうか、元々これはコウちゃんのためのクッキーじゃねーし！」
「うん、美味しい。優しい味……。」
　いつも通り、優しい味。一口食べるだけで、口の中いっぱいに広がる、秀星くんの優しい「料理」。やっぱり私、この瞬間って大好き。でも、今日はちょっと甘いような、まろやかなような？
「……、うん。いい反応じゃん。」
　秀星くんも、心なしか満足そうにしている。